安部公房『方舟さくら丸』

Shigure-sou2007-06-07

 久々の書評は、やはり安部公房

地下採石場跡の洞窟に、核シェルターの設備を造り上げた〈ぼく〉。核時代の方舟に乗れる者は、誰と誰なのか? 現代文学の金字塔。
新潮文庫HPより)


 安部公房らしからぬ作品だと思う。
 文体や構造も難解さは無く、とても読みやすい。結論も、其れなりに示されてはいる。
 三次大戦に備えた核シェルターの話ではあるが、其処に描かれているのは核の危機ではなく、知らぬもの同士の微妙で奇妙な人間関係が中心だ。
 其の為、彼らの騙し合いを期待しながら読み進める事になるのだが、大した仕掛けはない。
 文面だけを読むと、余りにあっさりしているので、物足りなさを感じてしまった。
 作品に込められた意味などを考えると、其れなりに面白いかもしれないけれど。結局主人公は、自分が見捨てた(自分を見捨てた)世界へと戻ってきたのだから。


 主人公があれこれ苦心すればするほど、物事が良くない、そして滑稽な方向へ行くことや、老人が少女達を陵辱する「女子中学生狩り」という発想は面白かった。

方舟さくら丸 (新潮文庫)

方舟さくら丸 (新潮文庫)