安部公房『方舟さくら丸』
久々の書評は、やはり安部公房。
地下採石場跡の洞窟に、核シェルターの設備を造り上げた〈ぼく〉。核時代の方舟に乗れる者は、誰と誰なのか? 現代文学の金字塔。
(新潮文庫HPより)
安部公房らしからぬ作品だと思う。
文体や構造も難解さは無く、とても読みやすい。結論も、其れなりに示されてはいる。
三次大戦に備えた核シェルターの話ではあるが、其処に描かれているのは核の危機ではなく、知らぬもの同士の微妙で奇妙な人間関係が中心だ。
其の為、彼らの騙し合いを期待しながら読み進める事になるのだが、大した仕掛けはない。
文面だけを読むと、余りにあっさりしているので、物足りなさを感じてしまった。
作品に込められた意味などを考えると、其れなりに面白いかもしれないけれど。結局主人公は、自分が見捨てた(自分を見捨てた)世界へと戻ってきたのだから。
主人公があれこれ苦心すればするほど、物事が良くない、そして滑稽な方向へ行くことや、老人が少女達を陵辱する「女子中学生狩り」という発想は面白かった。
- 作者: 安部公房
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1990/10/29
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 19回
- この商品を含むブログ (34件) を見る